ガリガリ……ゴリゴリ……
影山「……」
大江「……」
影山「遅いなあ、望月……」
大江「そうですね……」
影山「女の子が柔道なんてよくやるよなあ」
大江「はあ」
影山「……彫れた?」
大江「もうちょっとです」
影山「急がなくていいんだけどね……夏休みなんてヒマだし」
大江「……」
影山「鵠沼の笠置センセイ、いまごろなにやってんのかなあ」
大江「さあ……?」
影山「あのminiクーパーの男と海でも行ってんのかな。あーあ」
大江「やっぱり付きあってるんですかね、あの二人」
影山「付きあってないワケないでしょ。お寺に迎えにくるぐらいだよ」
大江「そうですね」
影山「ボクもフェアレディZでも買おうかな。いま乗ってるのスズキの軽だからさ」
大江「……」
影山「……そういえばさあ」
大江「なんですか?」
影山「どうして大江は世界史をとらなかったん?」
大江「あっ、スイマセン、影山先生の授業を選択してなくて」
影山「いや、べつに非難してるわけじゃなくて、ちょっと訊いてみただけだから」
大江「なんというか……日本をずっと離れていたから、逆に日本の歴史をよく知りたくて」
影山「わかる、わかるよ、うん」
大江「スイマセン……」
影山「でもさあ、なんで書道部の連中は揃いも揃って世界史をとらないのだろうと思ってさ……」
大江(望月さん、はやく来て〜)
ほのぼのとめはね……
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がらがらっ
加茂「こんちゃーす!」
三輪「あいかわらず暑い部室ね〜」
大江「あれぇ? 先輩たち、どうしたんですか」
加茂「海の家のバイトが終わったから、一年たちのハンコづくりがどうなったか見にきたぞ」
三輪「望月さんは来てないの?」
大江「彼女なら30分で仕上げて、とっくに帰りましたよ……」
加茂「そうかそうか、それは寂しいのう。ひっひっひ」
三輪「ゆかりちゃんも一応完成? ちょっと見せてよ……あー上手上手!」
影山「コラー! おまえたち、そんな派手な私服で学校へ来るな!」
加茂「わあ、いたのか妖怪ハゲ山」
三輪「きょうは書道しにきたわけじゃないから、固いこと云わないでよ」
影山「本来なら学校に許可をとってないバイトも禁止なんだぞ。用がないなら帰った帰った!」
加茂「ハイハイ。ゆかりを引きとったら帰りますよ」
三輪「さっ、帰り支度して、ゆかりちゃん。かき氷でも食べにいこ」
大江「え! 先輩がたのゴチですか、やったあ!」
影山「…………」
加茂「どうしたハゲ山? さびしげなヅラ……じゃなくてツラをして」
影山「うるさいっ」
三輪「あらら。先生も一緒に、かき氷、行きたいのかな?」
影山「べっ、べつにそんな……」
加茂「うちらじゃ、鵠沼の女教師のかわりになりませんが、それでもよろしくて?」
影山「あーあー、わーわー、聞こえなーい!」
大江「行きましょうよ、先生。きょうは一日ボクにつきあっていただいてありがとうございました」
影山「まあ……大江がそういうんならな……」
加茂「おっ、それならハゲ山、あのボロ軽自動車をまわしてくれよ」
三輪「校門前で待ってるから、急いでね。じゃあ行こう」
影山(くそ……がまんだがまん……)
ほっこりとめはね……
影山「気をつけて帰れよー」
大江「わざわざ送っていただいてありがとうございました。かき氷ごちそうさまです」
加茂「ばいばいきーん」
影山「……さーて、三輪ん家、大江ん家ときて、あとは加茂んトコだな」
加茂「……」
影山「戸塚のほうだっけ。なんでおまえん家だけそんなに遠いんだよ」
加茂「いいじゃんかよ……」
影山「なんだよ、二人っきりになったら急に無口になって……」
加茂「……」
影山(ちっ、女子高生は扱いづれーなー)
影山(それにしてもイイ匂いだな)
影山(もう十分カラダは大人だもんなー……)
加茂「おい、スピード落ちてるぞ」
影山「おっとっと」
加茂「権太坂ぐらい登れないのかよ、このボロくるま」
影山「うるさいなー。送ってもらってる分際で、かわいくないぞ」
加茂「……」
影山(うっ、しまった。かわいいとか、かわいくないとかいう言葉はNGだった)
影山(セクハラで訴えられたらどうしよう)
影山(なんでオレはこんな小娘ひとりにアタフタしてるんだ?)
加茂「あー、腹へった」
影山「えっ? さっきかき氷、食べたじゃん」
加茂「あれはおやつ。いま腹へってるのは夕飯」
影山「そんなこといったって、おまえ……」
加茂は助手席でゆっくりと脚を組み替えた。生のふともも……
影山「わかった。あそこの長崎ちゃんぽんにしよう……」
ほのぼのとめはね……
加茂「あたし、皿うどん……」
影山「ちゃんぽんとぎょうざのセット。あ、ぎょうざ、つまんでイイからな」
加茂「……」
影山(あ〜、扱いづらい……)
影山(相手は子供とはいえ、こっちもいいかげんキレそうになるぜ)
加茂「……こんなクソ暑いのによ」
影山「え?」
加茂「こんな暑いのにラーメン屋かよっての。となりのステーキ屋がよかったなぁ」
影山「ラーメンいうな! ちゃんぽんは安くて野菜が多くてイイんだよ!」
加茂「ごめん……」
影山「うっ……いや、大声だしてこちらもスマンかった。長崎出身なもんで、ついな」
加茂「……」
影山「……」
加茂「……あたしさあ、ココんとこ、おかしいんだよね」
影山「なにが?」
加茂「その人のまえに出ると、とつぜんハイになったり、無口になったり」
影山「……」
加茂「やさしく振る舞ったり、メチャクチャいじわるしてみたくなったり……」
影山「おまえ……」
加茂「自分がコントロールできなくなってさ。悪いなぁとは思ってるんだけど」
影山「そ、そうだったのか……」
加茂「どうしたらイイと思う? ねえ先生……」
影山「どうしたらって、まぁ、悪い気はしないけど」
加茂「そうなん?」
影山「でもまあ、歳も離れてるし、社会的にはゆるされない間柄だし……」
加茂「離れてるって、1コ歳下なだけだけど……」
影山「はっ!?」
加茂「やっぱり顧問としては、部内恋愛は許してくれないわけね。あーあ」
影山(お、大江……あの野郎っ)
ほのぼのとめはね……
大江「はくしょん! はくしょん!」
加茂「おンや〜? ゆかり、風邪?……じゃあないみたいだな」
大江「あー、ガモ先輩、おばようござびばす」
加茂「わっ、きたね! 鼻水だらだらじゃねーか」
大江「ずびばせん……」
加茂「目も真っ赤っかだ。こりゃひでぇ花粉症だな」
大江「えー! これって花粉症だったでずが……」
加茂「自分で気づいてなかったのかよ」
大江「ガナダでば、ぜんぜんダイジョボブだっだのに。はっくしょん!」
加茂「セントなんとか島にはスギ花粉があんまり飛散してなかったってことか」
大江「日本生活のおぼわぬ不便な点がわがりばじだでず」
加茂「なに云ってるのかぜんぜんわかんねえよ」
大江「ぐでぼるべべでみ、わがじもだだずでじ」
加茂「は?」
大江「ぐでぼるべべでみ、わがじもだだーずーでーじー!」
加茂「……てめえ、ふざけてわざとメチャクチャ云ってるな」
大江「バレましだか……ずびばせん」
加茂「花粉症は、不治の病だとよ。かかったヤツは災難だよな」
大江「あー、なんが不公平でずよね。どうぜなら日本人全員がががっでしまえばいいのに!」
加茂「おそろしい提案をするなよ」
大江「スギなんてギライだー! スギなどこの世から消えてじまえー!」
通りすがりのメガネをかけた僧侶
「杉がなんとおっしゃいましたかな……?」
ほのぼのとめはね……
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