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ほのぼの○○……
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テシ「ひさしぶり、大江くん」
大江「ああ、勅使河原くん、来てくれてありがとう」
テシ「結婚披露宴以来だね、ぼくとひろみの」
大江「双子ちゃんはどう?」
テシ「蔵碓(くらうす)と流香(りゅか)なら、元気だよ」
大江「そう、よかったね……」
テシ「こどもっていいもんだよ。……まあ、ひろみから、いきさつは聞いたけど」
大江「そうなんだ。知ってたんだね」
テシ「まさかあの加茂さんとはね……ちょっと驚いた。それで悩んでいるのかい」
大江「うーん……」
テシ「結婚は人生の墓場とはいうけれど……それほど墓穴のなかも悪くはないもんだよ」
大江「いや違うんだ。その……勅使河原くんはどうやって望月さんのことをフッ切ったのかなって」
テシ「……ああ……」
大江「正直、勅使河原くんのこと、むかしはイヤなやつだなーと思ってた。けど」
テシ「…………」
大江「いまなら、素直に、きみの意見に耳をかたむけられそうで……」
テシ「あんまり買いかぶらないでくれよ……」
大江「ごめん……」
テシ「……」
大江「……」
テシ「まあね、実際のところ、望月さんには振られたんだ。好きな人がいるからって断られた」
大江「そうだったの。知らなかったな」
テシ「誰にも云ってないからね。ひろみにも」
大江「望月さんに好かれていた男ってどんなヤツなんだろ。幸せもんだな」
テシ「…………」
大江「……えーと。もうひとつ参考までに訊かせてよ」
テシ「いいけど」
大江「どうして部長さん……日野ひろみ先輩を選んだの? 鵠沼の部長さんもいたのに」
テシ「まったく同じ色カタチのバラが二本あるとしたら、よい香りのほうを選ばないかい?」
大江「……納得」

ゆかりの苦悩はつづく…… ほのぼのとめはね……
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砂に書いた名前消して、波はどこへ帰るのか……

望月「覚えてる? この砂浜」
大江「もちろん……」
望月「7年前、ここに私の名前が大きく書かれてるのを見て、書道部に入ろうと思ったんだ」
大江「ごめん」
望月「アハハ。なんで謝るのよ」
大江「……」
望月「こっちこそゴメンね。明日の式に出席することができなくて」
大江「海外で強化合宿があるんじゃ、しょうがないよ」
望月「つぎに会うときは、もう大江くんって呼べなくなってるのかぁ……」
大江「加茂ゆかり——ゆりかもめみたいでヘンでしょ」
望月「アハハ……」
大江「……」
望月「……いまはもう八か月だっけ」
大江「……うん。おかげさんで」
望月「ウェディングドレスたいへんじゃない?」
大江「日に日におなかが大きくなっているからね。それに加茂先輩じたいが、食う食う」
望月「わたしは減量で苦しんでるから、うらやましいよ」
大江「それにしてもあんなに太るとはなぁ……」
望月「もう男の子か女の子かわかってるの?」
大江「いや、聞かないようにしてるんだ。名前だけは決めてあるけど……」
望月「どんな名前?」
大江「男ならススム。女ならユキ……」
望月「えーっ!? わたしと一緒?」
大江「加茂先輩が決めたんだ……CR宇宙戦艦ヤマトがどうとか……」
望月「そうなんだ……大江くんが決めたわけじゃないのか」
大江「ごめん……」
望月「……」
大江「……」
望月「……名前といえばさ」
大江「うん?」
望月「私のラブレターの話って覚えてる? 差出人が消えてたヤツ」
大江「うん。覚えてるよ。……それが?」
望月「その差出人、大江くんだったらいいなって、ずっと思ってた」
大江「……!」
望月「アハハー! このコトだけどうしても伝えておきたくて、今日は呼びだしたのだ」
大江「も、望月さん……」
望月「それだけ! じゃあ加茂先輩と末永くお幸せにね。バイバイ!」
大江「…………」

ざざーん…… ほのぼのとめはね……

ついに結婚式当日……

影山「おおおおい、おおおおおお大江、おおおお落ち着けよ」
大江「先生こそ落ち着いてください。仲人でしょ」
三輪「紋付袴が決まってること、かっこいいよ、ゆかりちゃん」
大江「ありがとうございます」
日野「とても頼もしい感じ。これなら加茂ちゃんを任せられるわ」
大江「もうここまで来たら開き直るしかないです」
三輪「これで望月さんが来たら、ひさびさに鈴里書道部メンバーがそろったのにねぇ」
日野「そうね、お花と祝電はきてるみたいだけど」
大江「…………」
三輪「それにしても新婦おっそいわねー」
日野「ほんとに。時間か会場を間違えてるのかしら」
三輪「身重なんだから、よゆうをもって来なさいといったのに……」

 「ワホ! ワホ!」

大江「あれっ、ピースじゃないか」
三輪「望月さんが来れないかわりに、犬が祝福にきたってこと?」
日野「違うみたいよ。首輪に手紙がついている……大江くん宛よ」
大江「えっ? 加茂先輩からですか?」

ゆかりは開封した。

「——ゆかりへ。
これを読んでいるころ、わたしはどこかの線路のうえを走っているだろう。
行き先は教えられない。
これからは一人で……いやお腹の子と二人でひっそりと生きていくつもりだ。
おまえには迷惑をかけっぱなしになってしまった。
式場に来てる方々にも身勝手をわびてほしい。最後のお願いだ。
憎まれてもしかたがない。ほんとうに申し訳なかった。

そして、それ以上に、ゆかりには感謝の気持ちを伝えたい。
今朝、結婚式の当日をむかえるまで、ほんとうにわたしは幸せだった。
高校生のころからずっと想いつづけてた人と結ばれる——こんな幸せがあるだろうか。
卒業しても、借金のふりをして、ずっとおまえに連絡を欠かさなかった。
赤ちゃんをつくったのも、なんとしてもおまえと家庭を築きたかったからだ。
わたしのやりかたは強引すぎて、おまえには迷惑だったに違いないけど……

そして今朝、やっとわかった。
やはり、ゆかりはわたしと結ばれるべきではない。
ゆかりには、もっとふさわしい人がいる、と。
ゆかりへの愛が深すぎるがゆえに、こんな簡単な真実に気づくのに時間がかかってしまった。
借金は返す。というか、おまえから預かっていた金はビタ一文使ってない。
結婚生活のために貯めておいたのだ。それどころか競馬やパチンコで少し増やしてある。
同封してあるカードでおろしてくれ。

最後に、この半年間の幸せをありがとう。さようなら」

大江「おい、ピース……」
白獣「ワホ! ワホ!」
大江「この手紙どこで渡された? いますぐそこへ連れてってくれ!」
白獣「ワホーン!」

おどろくひとびとを尻目に、ゆかりとピースは走りだした…… ほのぼのとめはね……

月・水・金の部室。

大江「王手」
加茂「んー。待った!」
大江「ダメです。もうこれ以上待てません」
加茂「じゃあまた最初っから! もっとハンデつけろ」
大江「飛車角金銀桂香オチから、どうやってさらにハンデをつけろと?」
加茂「男なら裸一貫でこんかい!」
大江「無茶いわないでください」
加茂「将棋はつまらん! 射幸心があおられんわ」
大江「最高の頭脳ゲームなのに……。ってゆーか、字を書きましょうよ」
加茂「えー。やる気レス」
大江「書道甲子園と文化祭が終わってからというもの、麻雀とかトランプとかばっかり……」
加茂「文化部なんてそんなもんだろ」
大江「三輪先輩も、さいきんはぜんぜん姿を見せませんね〜」
加茂「文化祭でちゃかり他校の彼氏をゲットしやがってよ……裏切り者め」
大江「火曜と木曜と、たまに土曜だけですよね。ボクらがまじめに部活動してるのって」
加茂「望月のくる日な。なんかあいつがいるとサボれねぇんだよな」
大江「やる気のないひとに対して異常に厳しいですからね」
加茂「まるで部長みたいだなー。あははー」

日野「あのー……さっきからずっと本当の部長がここに座って臨書してるんだけど……」
加茂「おう日野ちゃん、大富豪でもやらないか?」
日野「やりません!!!」

ほのぼのとめはね……

大江「えい! 10で革命です!」
加茂「おっ、ここで来たか〜」
大江「いつまでも部長さんを大富豪の座にのさばらしておくワケにはいきませんよ」
日野「……5が2枚」
大江「パス」
加茂「パス」
日野「4が3枚。3とジョーカー。ジャックで革命返し。1が2枚でアガリ」
大江「……うう」
加茂「ゆかり、どんな勝算があったうえで革命したんだよ」
大江「どおりでカード交換で中途半端なカードをよこすと思った……」
日野「どういう状況にも対応できるようにしとくのが資本家というものよ」
大江「ごもっともです」
日野「さあ、約束ね。わたしが5連勝したから、あなたたち半紙20枚書くこと」
加茂「日野ちゃーん、マケてよぅ、10枚で勘弁して」
日野「ノー」
加茂「こうしよう! もうひと勝負して、こっちが勝ったら半分、負けたら倍!」
日野「だめったらだめ。というか、わたしが負けるわけないでしょ」

がらがら……

望月「こんちわー」
加茂「うっ、やべ! トランプ隠せ!」
望月「ちょっと先輩たち! 字の練習しないで、なにやってんですか!」
日野「望月さん、柔道部は……?」
望月「虫の知らせがして抜けだしてきました! 案の定ですね。隠したものを見せてください!」
大江「ごめん、これ……トランプやってたんだ……」
望月「ページワン? ババ抜き?」
大江「大富豪……」
望月「四人そろったからにはコントラクト・ブリッジですね! さあ今夜は徹夜よ」
日野「しょ……勝負の鬼……」

ほのぼのとめはね……
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