大江「……」
加茂「おーい、ゆかり」
大江「あ、加茂先輩。おつかれさまです」
加茂「うちら二人って、いつも開幕がこのパターンだな」
大江「えっ? なんの話ですか」
加茂「いや、業務連絡的なコトだ。ところで、なにをボケーと見上げてるん?」
大江「見ればわかるでしょ、桜ですよ、桜」
加茂「ああ、開花したんだな」
大江「キレイですね、日本の桜って……」
加茂「そうだな。鮮やかにバーっと咲いたと思うと、一週間ぐらいでいさぎよくパッと散る」
大江「神妙な気持ちにさせられる不思議な光景ですよね……」
加茂「なんか昔のコトでも思いだしたか? しみじみしちゃて」
大江「そうですね。ちょうど一年前のことです……ボクが日本に来て、鈴里高校に入学し」
加茂「ああ、もうそろそろ一年なのか」
大江「早いですよね! 書道部の部室に行ったら先輩たちに脅されて……」
加茂「勧誘されて、と云え」
大江(望月さんと会ってからも一年なんだよなあ)
大江(待てよ、もう一年経ったら、先輩たちが卒業するから……)
大江(もし今年、新入生が入部してこなかったら、望月さんと二人きりの書道部に?)
大江(部室でふたりっきり……合宿でふたりっきり……はぁはぁ)
加茂「ところで、ゆかり、通信簿どうだった?」
大江「え? ああ、国語以外は可もなく不可もなくってカンジでしたけど」
加茂「そうか、よかったな」
大江「加茂先輩は?」
加茂「いやー、それがビックラこいたよ。今日、担任の先生にいわれるまで気づかなかった」
大江「は?」
加茂「出席日数足りなくて留年だとさ! 4月からは同級生だ、よろしくな!」
大江「……」
ほのぼのとめはね……
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「おーおーえークーン! あーそーぼー!」
大江「だ、だれだ? 窓のそとでバンシーみたいな声をあげているのは」
加茂「にゃっほー。わたしらだよ」
三輪「おっはー、ゆかりちゃん」
大江「先輩がた! なんの用ですか」
加茂「なんの用とはごあいさつだな。書道部で呼びにきたに決まってるだろ」
大江「だって春休みですよ! きのう終業式だったでしょう。ぼくセンバツ見てるんですけど」
三輪「新入生を勧誘するためのカンバンつくったり、揮毫の練習をするのよ」
加茂「書道部に春休みなんてモノが存在すると思ったら大間違いだ!」
大江「夏休みもツブされたし……冬休みも二年参りや書き初めで動員されましたよね……」
三輪「もー。グチグチ引きこもってないで外に出てきなさいよ。いい天気よ」
加茂「柔道部の練習終わったら、望月もくるってよ!」
大江「行きます! すぐ行きます!」
大江「お待たせしました、はあはあ……」
加茂「慌てすぎだよ。ハミガキの泡がクチについてるぞ」
三輪「いいよいいよ。日野ちゃんが待ってるし、さっ、行こう」
大江「……先輩。さっき揮毫するって云いましたよね」
加茂「おう。やったるでー」
大江「去年ってたしか青春アミーゴでしたよね」
三輪「……そうだったっけ?」
大江「そうですよ。ボクと望月さんはそれを見て書道に目覚めたんですから! ……たしか」
加茂「え〜……。そんな古い唄でやったけなぁ?」
大江「今年はどんな唄でいくつもりですか? またピンクレディじゃないですよね」
三輪「いまどきのワカモンにアピールするなら……青山テルマ『そばにいるね』あたり?」
加茂「それっていつの唄? ……去年?」
大江「え……おととしでは?……いつでしたっけ?」
三輪「ていうか……今年って何年?」
加茂「うちらって、いったいいつになったら春休みにたどりつけるワケ……?」
ほのぼのとめはね……
加茂「日野ちゃん、お待たせー。ゆかりを連れてきたよ」
大江「おはよーございます……連行されました」
三輪「あれぇ望月さんいるじゃん。練習おわったの? 早いね」
望月「柔道部なら出し抜いて……じゃなくて、抜け出してきました。あははー」
大江(こんなチャランポランでよく世界選手権の代表になれたよな……)
日野「ハイハイ注目〜! みんな、春休みなのに集まってくれてアリガトウ」
加茂「いえいえ」
日野「きょうは大事なコトを決めます。新入生勧誘会の役割分担と、揮毫のテーマ曲です」
三輪「ことしは五人いるから、そのへんシッカリしとかないとね」
日野「まずは看板の担当ですけど……これは一人にしかできません。大江くん」
大江「あっハイ。大道具ってコトですか。まあたしかにボクしか男いないですからね」
加茂「違うよ、ゆかり。おまえが看板になるんだよ」
大江「……意味がよくわかりませんが」
三輪「全身ぴったりの白タイツを着るの。そこにみんなで墨で宣伝文句を書きまくるから」
大江(なんという筆プレイ……はぁはぁ)「やります! やります!」
日野「決まりね。あとは揮毫だけど……」
望月「はいはーい部長さん! わたし大きいのやってみたいです!」
日野「そうねぇ……」
加茂「望月はデカいの得意だし、なにより国民的アイドルだから新入生にも受けそうだな」
三輪「いいんじゃないかしら。私と加茂ちゃんはいつも通りサポート役でいくわ」
大江「異議なーし!」
日野「あ、そう……みんな望月さんに賛成なのね……」
全員「……」
日野「わたし……テーマ曲もだいたい決めてたのに……ぐすっ……しくしく……」
望月「あーっと……やっぱりわたし辞退します! そもそも字がヘタだし!」
加茂「そっそうだな! 望月はマルとバツしか書けないからな! にゃははー」
大江「やっぱりここは部長さんこそが大役を務めるべきデショウ!」
日野「みんなわかったわ、任せといて! 曲はこのなかからどれがイイかしら?」
全員(ジャニーズばっかりかよ……)
ほのぼのとめはね……
望月「はよーございますっ!」
全員「……」
望月「……ど、どうしたんですか? 部室がお通夜みたいなムードになってますが」
大江「おっ、おはよー……」
日野「おはよう、望月さん……」
加茂「(ひそひそ)意外とサバサバした感じだな……」
三輪「(ひそひそ)アレかしら、落ちこんでないふうに装ってるのかしら……」
大江「(ひそひそ)しっ、聞こえちゃいますよ」
望月「なにコソコソ話してんですかっ?」
大江「あう。イヤー、べつに……」
加茂「望月、きのうはお疲れだったな、日本選抜体重別」
三輪「加茂ちゃん! きのうのコトにふれちゃダメだって」
加茂「なに云ってんの、来留間真里を破って優勝したんじゃないか、そこは祝福しないと!」
日野「おめでとう望月さん。テレビで応援してたよ。スゴいよね」
大江「おめでとう、日本一!」
望月「あははー、ありがとうございます! でも五輪の代表からはハズれちゃいましたけどね」
全員「……」
望月「来留間さんの実績には及びませんからね。これで五大会連続ですって、スゴいなあ」
全員「……」
加茂「にゃはは……。まあその、なんだ……」
三輪「そうね。望月さん、気を落とさずに、というか……」
大江「また四年後がありますよ、うん……」
望月「ハア? なんですかソレ? もしかしてその件で私が落ちこんでるとでも?」
全員「……」
望月「やだなあ、気ぃ使わなくてダイジョーブですよ! 北京なんかに未練はないです」
全員「…………」
望月(完っ璧に誤解されたなあ。メールで来留間さんに代表をゆずっちゃったっていうのは、
しばらく黙っとこ。夏は書道部の合宿に参加したいんだよね……)
ほのぼのとめはね……
プルルル……
勅使「はい?……もしもし……」
勅使「なんだ、おまえかよ。寝てたに決まってるだろ……こんな夜中になんだよ」
勅使「はあ? 声が聞きたくなったって?」
勅使「そんだけの用で電話してくるか、ふつー? いま1時だぞ」
勅使「……ちょ、泣くなよ……」
勅使「うん、うん……はいはい」
勅使「ふたりの関係って、いまさら訊かれてもなあ……」
勅使「……まあ、書道部の部員同士、としか云えんよな」
勅使「だから泣くなっての」
勅使「……うんうん、わかったわかった」
勅使「それはだから認識の違いってヤツだろ」
勅使「だーかーらー、花火の時みんなから離れてキスしたぐらいで、恋人にはならないっての」
勅使「あっそ。ふーん。いいよべつに。部員一人ぐらい減っても……」
勅使「分をわきまえろっていうの」
勅使「おれみたいなイケメンが、おまえみたいな書道オタク女とつりあうわけねーだろ」
勅使「おれは学校の女子全体の共有財産みたいなもんだからさあ……」
勅使「そうそう、わかればいいのよ、わかれば」
勅使「いい子にしてたら、またかわいがってやるからさ」
勅使「うんうん……わかったから、今夜のところはもう寝ろよ」
勅使「はいはい……えー? 例のアレをやれって? やったら寝ろよ」
勅使「ラーメンつけめん、ぼくイケメン。はい、おやすみー」
勅使「……ふー、めんどい……」
笠置「……もう、うるさいわねー。こんどはだれを泣かしたのよ?」
勅使「あ、ごめん、起こしちゃった?」
笠置「おイタもほどほどにしとかないと、いつか刺されるわよ」
勅使「大丈夫。気は強そうにみえても、意外と臆病だから……あの日野よしみという女は」
笠置「なぁんだ彼女だったの……とりあえず明日100枚書き取りの罰ね……」
ほのぼのとめはね……
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