三輪「加茂ちゃん、着替え終わった〜?」
加茂「もうちょい。鍋ふってるからエプロンがベッタベタだよ」
三輪「昼間きたサーファーのお客さんがさ、このあとカラオケ行かないか?だって」
加茂「うう〜、わたしはパス」
三輪「なんでぇ。けっこうイケメンだったのに。もったいない……」
加茂「なんだかね。そういう気分になれなくて……。さっ、お待たせ。帰ろ」
三輪「……あ〜あ。加茂ちゃん、最近、合宿終わってから元気がないじゃん」
加茂「そうかな……」
三輪「オトコ作る目的で海の家のバイトを決めたのに、ぜんぜんノリ気ないしさ」
加茂「ごめんよ。わたし海の家やめようかなあ……」
三輪「……ずいぶんとコレは重症だわね」
加茂「べつに病気とは違うよ」
三輪「いいのよ隠さないで。お見通しなんだから——ゆかりちゃんでしょ」
加茂「うっ……」
三輪「キモチは分かるよ。あたしですら、ここんトコあの子の顔が見れなくて寂しいもん」
加茂「そうなんだよ! アイツにパンを買ってきてもらわないと、どうも調子が……」
三輪「ゴマかさないの! 親友でしょ。一学期からとっくに気づいてたわよ」
加茂「三輪ちゃんにはかなわねーなー……」
三輪「なんで合宿の時コクらなかったの? 花火のときとかチャンスあったでしょ」
加茂「告白なんてめっそうもない。あたしはゆかりに恐怖しか与えてないし」
三輪「望月さんに遠慮してるとか? ほっといたらあの二人くっついちゃうよ」
加茂「そうなったらそうでイイよ……もうやめよーよ、この話は」
三輪「……そうだ! あした海の家さぼって、ゆかりちゃん家に遊びにイコー!」
加茂「え?……」
三輪「同じ部の仲間が遊びにいくぐらい、どうってことないでしょ。命短し恋せよ乙女よ、加茂ちゃん」
加茂「そうか……そうだねぇ。そんぐらいならイイっか! よーしスイカ持っていこ」
そのころ宮田庵……
大江「麻衣ちゃん、明日ボクん家で英語の勉強しない? クーラーあるし、おバアちゃんも会いたいって」
麻衣「あっ、いくいく! メロン持ってくよ!」
ほのぼのとめはね……
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加茂(くそっ、このスイカけっこう重いな。ふぅふぅ)
加茂(三輪ちゃんたら、当日の朝になって急におなかが痛いから行けないだなんて……)
加茂(……もしかしたら私とゆかりを二人っきりにしようと気を使ったのかな?)
加茂(かえって二人きりのほうが気まずいんですけど……)
加茂(あー、やっとゆかりの家が見えてきたよ、ふぅふぅ)
加茂「おーおーえーくーーん! あーそーぼー!」
祖母「あら? ゆかりのお友達……?」
加茂「あっ、おばあちゃん、お久しぶりです。加茂と申します。ホラ、藤沢駅まえのイベントで……」
祖母「ああ、書道部の方。……ごめんなさいね、いま、ゆかり留守なのよ」
加茂「えっ……(ガーン)」
祖母「でも、きょうのバイトはランチだけって云ってたから、ぼちぼち帰ってくると思うけど」
加茂「バ、バイトしてるんですか? あのゆか……大江くんが」
祖母「そういえば、お友達が遊びにくるって話してたっけ。さあさあ、どうぞあがって」
加茂「?? おじゃまします……あっ、コレつまらないもんですが」
祖母「まあまあ、ずいぶん立派なスイカね。重かったでしょう」
加茂「冷やす場所ってありますか?」
祖母「冷蔵庫には入りきらないしねぇ。お風呂場に水を張って冷やしましょうか」
加茂「重たいですから私が運びますよ……お風呂場こっちですか?」
そのころ、ゆかりの父・義之は、裸でリラックスしていた。
義之「あー、金はないし仕事もない」
義之「こんなクソ暑い日は、家で水風呂に入ってんのが一番だな〜」
義之「あれ……ゆかりがもう帰ってきたのかな? おーい一緒に入ろうぜ、相棒」
加茂「ぎぃやぁぁぁぁ!!! 変態ぃぃぃ!!」
義之「げっ! なんでピンクレディのケイちゃんがうちに……!」
スイカは加茂の手から落ちて、ぐちゃぐちゃに砕けちった……
ほのぼのとめはね……
祖母「ほんとにごめんなさいね、ケイちゃん」
義之「いやー、じつにお見苦しい姿を……すまんかった、ケイちゃん」
加茂「はあ、いきなり風呂場の扉をあけた私もいけなかったですから……」
加茂(いつのまにかピンクレディーのケイちゃんになってるし……)
加茂(それにしてもビックリしたなあ……オトコの人の下半身ってあんななの?)
加茂(ゆかりもあんなグロテスクなもんブラさげてるのだろうーか、おええ〜)
祖母「スイカは残念だったわね」
加茂「あー、いえ、海の家からタダで拝借してきたものでしたから、にゃはは……」
義之「オレが責任をとって、ぜんぶ処理するからさっ」
加茂「食べるんですか?」
義之「いや、ムシたちに食べさせる」
加茂(ぞぞぞぞっ……)
義之「カブトやクワガタをいっぱい育ててんだよ。これが近所のガキに高値で売れてな。見たい?」
加茂「虫は苦手でなんで、遠慮しときます……」
加茂(ゆかりのママが逃げてったの、わかる気がしてきた……)
祖母「それにしても驚いたわねぇ。ゆかりにまさかこんなカワイイお友達がいるなんて」
義之「まったくだ。去年までカナダで雪だるまと戯れてたと思ってたら、もう女の子と戯れてるとは」
加茂「……」
祖母「えーと、ゆかりのどこが気に入って付きあってるのかしら、ケイちゃん」
加茂「付きあってるというのは早いんですけど……」
義之「そうだそうだ。あんなまだ下の毛も生えてないようなヤツには早すぎるっ」
加茂「……あー、あえて云うならば、ゆかりくんの字の美しさですね。おばあさんに教わったとか」
祖母「あらー! うれしいこと云ってくれるじゃない」
義之「なぬ、字がうまけりゃケイちゃんと付きあえたのかよ。オレも真面目に習字やっときゃよかったな!」
加茂(どつきたい……どつきたい……どつきたい……)
ほのぼのとめはね……
加茂「あの……ゆかりクンの部屋で待たせてもらってもいいですか?」
祖母「あらそう? どうかしらね、勝手に入れちゃって……」
義之「平気でしょ。友達が来るってんで、けさ念入りに掃除してたみたいだし」
祖母「そうねえ。さすがに本人もぼちぼち帰ってくるでしょうし」
義之「エロ本が隠してあったらオレに渡してくれ、ナハハハっ」
加茂「……」
加茂(はあ、なんつーオヤジだろう……これ以上一緒にいたら手が出るところだったよ)
加茂(ここがゆかりの部屋か……)
加茂(6畳一間、押し入れ、机、本棚。まるでのび太の部屋みたいだな)
加茂(押し入れ開けたらドラえもんが寝てたりして……ううっ、開けてみたい!)
加茂(いや、だめだ、だめだ。泥棒じゃないんだから)
加茂(それにしても、ほんとーに片付いているな)
加茂(なんでゆかりは私が訪れることを知ってたのだろう? 三輪ちゃんが情報を流したのかな)
加茂(早く帰ってこいこい、ゆかりんグー)
加茂(……)
加茂(本棚スゲぇな。英語の本ばっかりだ)
加茂(それに混じって書道の本がいくつか。感心感心)
加茂(うっ、これは……日記か?)
加茂(イヤっ、だめだろう、それはさすがに! その手をはなせ加茂杏子!)
加茂(……アタシのことも書いてあるのかな……)
加茂(ちょっとだけ、ほんの1ページだけだ……うあー、超ドキドキする!)
「○月○日 加茂先輩に1000円貸した。累計4万9000円なり。
○月×日 加茂先輩からビンタされた。耳はやめてほしい。
○月●日 日曜なのに加茂先輩に連れ回された。「相棒」なんてテレビでも観ないのに……」
加茂(ヤバい……心臓がドキドキというより、ズキズキしてきた……)
ほのぼのとめはね……
加茂(この日記帳、毎日毎日、ほとんどアタシのことばっかりだ……)
加茂(アタシってば、どんだけゆかりにヒドいことしてきたんだよ)
加茂(海より深く反省した。ゆかりに会ったら謝ろう……)
そのとき、玄関のほうから人の気配がした。「ただいまー」
加茂(わわっ! ゆかりが帰ってきた!)
加茂(髪の毛、乱れてないかな? 鏡チェックしとけっての加茂杏子!)
加茂(おっと日記! もとの場所に入れとかなきゃ!)
大江「さあ、どうぞあがって。むさ苦しいトコだけど」
麻衣「おじゃましま〜す!」
加茂の動きがとまった。(……だれ? この女の子の声?)
祖母「おかえり、ゆかり……。アラもうひとりお友達?」
大江「あ、おばあちゃん、紹介するよ、宮田さん」
麻衣「宮田麻衣です、いつもお世話になってます。こちらお土産のメロンです」
祖母「かわいらしくて礼儀正しくてイイ子ね〜」
義之「……おっ、なんだなんだ? ゆかりのヤツ、今日はモテモテじゃないか」
大江「父さん、いきなりなに云ってるんだよ、初対面で失礼でしょ」
義之「ケイちゃんがさっきから部屋でお待ちかねだぞ」
大江「ケイちゃん? だれ?」
義之「おやおや、これは修羅場の予感ってヤツか? きひひ……」
大江「ごめん麻衣ちゃん、うちの父、たまにへんなこと口走るんだ」
麻衣「……(よくわかんないけど笑っとけばいくね?)」
大江「とりあえず部屋にいこ。こちらへどうぞ」
加茂は日記をお手玉して、その場に落としてしまった。「ヤベェ、来ちゃう!」
押し入れをあけると上段にダイブし、ぴしゃっと閉めた。
加茂(なんで隠れてんだよ、アタシ……)
ほのぼのとめはね……
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