カナダの別れ

七年まえ、プリンスエドワード島のとある岬。

母「……今夜の便で帰るわ」
父「もう引きとめてもムダか……」
母「ゆかりのこと、よろしくお願い」
父「二度と会わせることはできないぞ」
母「覚悟のうえよ。最後に10分だけ時間をちょうだい」

ゆ「あ、ママー」
母「ゆっくん、こっちいらっしゃい。潮風でこんなにほっぺたが冷えて……」
ゆ「ママ、あったかーい……どうしたの？　ママ泣いてるの？」
母「…………」
ゆ「パパにいじめられたの？　どっか痛いの？」
母「……違うのよ。ゆっくん。よく聞いて」
ゆ「？」
母「強い人間になるのよ。強いというのは、優しいということ」
ゆ「……？」
母「わからないかしら、そうね、あれをごらんなさい」

岬のさきの波打ち際に、白い毛のおおきな獣がいた。「ワホ！　ワホ！」

母「あれは、この島原産の珍獣、ワホリアン・ハスキー犬よ」
ゆ「大きい！　魚をとってる！」
母「あの犬はトドより大きくなって白熊より強くなるけど、ホントはとても優しいの」
ゆ「ほんとだ！　カモメに魚をあげてるよ」
母「ね、優しいでしょ……」
ゆ「うん、わかった。ゆっくん、あの犬みたいになる！　ワホワホ！」
母「……ゆっくん、いい子ね……ううっ」
ゆ「いつか、あの犬を飼えるといいなー！」
母「…………ゆっくん……ゆっくん……」

遠吠え「ワホ！　ワホ！　ワホ！」

ほのぼのとめはね……

乗り換え案内

ファミレスにて、午後七時。

大江「……とボブは発言した。だが返ってきたのは沈黙だけだった……と」
加茂「あとどんくらいだ？」
大江「七行ですね」
加茂「さーすが帰国子女。へたな電子辞書より、よっぽど使えるぜ」
大江「自分でやらないと身に付きませんよ……」
加茂「それは違うな、ゆかり。わたしは尊い自己犠牲を払っておまえに奉仕してるのだ」
大江「はあ……？」
加茂「わたしの英語を犠牲にして、ゆかりに日本語を学ばす機会を与えているのだよ」
大江「はいはい」
加茂「ご機嫌ナナメだな。きょうの部活、望月が柔道のほうに行っちまったからか？」
大江「ちがいますよ、もう〜。……はい、終わりましたよ」
加茂「おっ、ごくろう！　いやー神さま仏さまユカリさま。この次も頼むよ」
大江「堪忍してくださいよ……（部長さんにチクってやる）」
加茂「きょうはわたしがオゴってやるから！　ホラ太っ腹」
大江「ぼく、水しか飲んでないですけど……」

翌朝、通学路。

大江「あ、望月さんだ……お、おはよー」
望月「…………」
大江（あれ、イライラしてるぞ）
望月「あーら大江くん、おはよう。きのうはお楽しみでしたね」
大江「え……？」
望月「見たわよ柔道部の帰りに。ファミレスで加茂先輩と二人、仲よさそうにしてるとこ」
大江「あ、そ、それは……ちがう……」
望月「イーダ！　さいならっ」

大江（はあ……また望月さんに嫌われた。もうあきらめたほうが無難かな……）
大江（正直……自分でも加茂先輩のほうが相性いいんじゃないかと思うことがある……）
大江（このまま鈍行でいくか、それとも急行にのりかえるか……）
大江（……）

ほのぼのとめはね……

自負

加茂「おーい、ゆかりっ」
大江「……」
加茂「ゆかり、てめえ、無視かよっ」
大江「……え？　ああ、おはよーございます、加茂先輩」
加茂「なんだ、音楽聴いてたのか」
大江「すいません、イヤホンはずしますね」
加茂「どんな趣味なんだ？　ちょっと貸してみろ」
大江「はあ……」
加茂「なんだこりゃ！　いまどきカセットかよ」
大江「おばあちゃんのお下がりです」
加茂「おまえン家は昭和で時が止まっているな……」
大江「ふるきをたずね新しきを知る、ですよ」
加茂「こしゃくな！　……で、なんだ、この曲？　予想に反してロックだな」
大江「学徒です」
加茂「学徒？？　……ばーか、発音違うよ。Gacktだろ」
大江「そうそう、それです。Gacktです」
加茂「なんというか、意外な組み合わせだな、Gacktとゆかり」
大江「そうですかぁ？　自分でいうのもなんですけど、ボクってGacktに似てるかなぁって」
加茂「……」
大江「望月さんもGacktのこと好きって、いつかいってましたよ」
加茂（さて、どこをドツこうかな）

ほのぼのとめはね……

笑顔

三輪「あら。ゆかりちゃん。おはよー」
大江「あ、三輪先輩、おはよーございます……」
三輪「……」
大江「……」
三輪「……」
大江「……」
三輪「……恐いのかしら？」
大江「え？　なんのことですか」
三輪「ゆかりちゃんも、望月さんも、一年生って私のことなんだか怖がってない？」
大江「そ、そんなことはないデスけど……」
三輪「そう？　ゆかりちゃん、加茂ちゃん相手とだとエラく話がハズんでるのに」
大江「そーゆーふうに見えますか……」
三輪「望月さんとも、ふたりきりだと気まずくなっちゃう」
大江（……参ったなあ、朝から……）
三輪「あっ、ゴメンネ、つまんない話して」
大江「いや、大丈夫です……」
三輪「……」
大江「……」
三輪「笑顔をたやさないよう心掛けているのになぁ……」
大江（だから、その、なにを考えているかわからない笑顔ですってば……！）

ほのぼのとめはね……

お風呂2

日野姉妹6歳、入浴中。

ひろみ「……59……60……」
よしみ「……」
ひろみ「60……いち……」
よしみ「どうした。止まるな、ハイヨーシルバー」
ひろみ「よしみん、60の台って、50台までと比べると数えにくいよね」
よしみ「そうだな……」
ひろみ「70と80の台も数えにくいよね。ナナジューナナーとか」
よしみ「ああ」
ひろみ「ちょうどお風呂入ってると、熱くなって苦しくなってくるころと一緒だよね」
よしみ「……」
ひろみ「それで、90までくると、急に数えやすくなるよね」
よしみ「……で？」
ひろみ「お風呂が熱くても、残り10だからガンバロウ！って気になるよね」
よしみ「……だな」
ひろみ「数って、よく出来てるよねー！！」
よしみ「ひろみ。その話、オチがないんだったらお湯に頭を沈めてやるけど、いいか？」
ひろみ「…………」
よしみ「……わっ！？　くせっ！！　オチないからってオナラしやがったな！」

ほのぼのとめはね……